大岡信の詩

生誕の朝

風が吹く その背に乗って
高い雲が染めに来る ひとびとの眼を

水玉のように分れてゆく時の小枝に
女はまたがり歌っている
空にひそむ動物たちを 生誕と
死が湖水となり焔となる夜ごとの床を

「花々の生き死にのうちに生き死ぬ時間
それがぼくらにかかわりを持つか?」
女は笑ってきらめくを抱きしめてみせた
したたるしずくに燃えあがる腕

やがて空は満ちるだろう
女のももに
花の影はぼくらの内部にしみこんでいる
木々のあいだを言葉がひそかに泳ぎはじめる