折々のうた

蟻地獄

松風を聞く

ばかりなり

高野 素十

大正末期から昭和初期に「ホトトギス」で活躍した四S(秋桜子・素十・青畝・誓子)の一人。昭和二年、三十四歳の時の作。松風を聞いているのは作者である。海辺の松林。砂地には蟻地獄の穴。空には松風。人はその松風にじっと耳を傾ける。ただそれだけ。それだけなのに、句にふしぎな虚空のひろがりがあるのは、聞く主体が蟻地獄と松風だけの世界に没入して消えてしまったからか。