大岡信の詩

二十歳

空はからりと折れんばかりに晴れわたる。その空の下で軒なみに壁が割れる。壁の割目を霧が埋める。蔓草が這う。荒廃はすでに私のみではない。

ああ この二十歳の磁場のそとに、寂莫たる葦の湿地。思念の周囲にもりあがる大河のとりで。
骰子はとうに投げられている。しかも私をこの岸にとどめるものはなにか。悲しみは私の内部に階層をなし、私はそれらの置きかえにのみ熱心だ。

梢にそよぐ風を私は、聞く、しかも私は聞いていない。かなたにひろがる葦の湿地が、あまりに私を惹きつけるのだ、あまりに私を突き放すので。

すでに整然たる磁場はくずれた。私は沙上をさまよい歩く。私は窓に記憶のノートを撒き散らす。落日。森の長い影が私の内部に伸びている。私は夜に入ってゆく。