大岡信の詩

柿に寄せて

柿の花、今年よく咲けり
昨年の秋
そは実らざりし
敗戦の悲しみに
汝も打ちひしがれしか
三つ四つ着けたりし小さき実も
赤く実らずして、落ちにし
されど今年
汝が新生の息吹は
咲く花に溢れたり
晩春の夕映に
汝を仰ぐ我が眼
そが裏に
枝もたわわに実りし
柿の赤きが踊るさま
彷彿として現るゝなり
古りて死すると見えし柿
その枝に、今年
実おもおもと垂るゝ
想ふだに愉しからずや
柿の花、今年よく咲けり