大岡信の詩

夏の終り

夜ふけ洗面器の水を流す
地中の管をおもむろに移り
遠ざかってゆく澄んだ響き
一日の終りに聞くわたしの音が
たかまるシンフォニー
節まわしたくみな歌でないことの
ふしぎななぐさめ
キュウリの種子
アリの死骸
魚の目玉
ケラの歌
《ほろび》というなつかしい響き
それらに空気の枝のようにさわりながら
水といっしょに下水管をつたい
闇にむかって開かれてゆく
わたしひとりの眼
ひと夏はこのようにして埋葬される