熊野川下す早瀬の水馴れ

棹さすが見馴れぬ波の通ひ路

後鳥羽上皇

『新古今集』巻十九神祇歌。新古今の選定者にして代表歌人。尊崇した熊野権現に詣でて、本宮から新宮まで早瀬を下った。「瑞馴れ棹」(熟練の棹)と「見慣れぬ」は同音の対照。「さすが」はとはいえ。「さす」は「棹」の縁語。熊野川の急流をさばくなんとみごとな水馴れ棹よ。とはいえわが身にはまた、なんと珍らしい見馴れぬ波の通い路よ。技巧を尽くしているが、語調には明るい流動感、心には権現への帰依と賛美。