箱を出て

初雛(はつひな)のまヽ

照りたまふ

渡辺 水巴(わたなべすいは)

『富士』(昭一八)所収。「初雛」は女児の初節句に飾る雛人形をいう。しかしこの句の主役は、逆に古雛。毎年桃の節句になると箱から取り出される古雛が、歳月を経ているにもかかわらず、顔も姿も初雛さながら(あて)やかに照り映えているめでたさを詠んだのである。昭和十二年の作だが、これと並ぶ句は急に現実に帰って、「印刷代突然(あが)り雛過ぎぬ」。当時の時局が時局だけに、雛のあわれも一層心にしみただろう。