旅をゆきし

あとの宿もり

おのおのに

(わたくし)あれや

今朝はいまだ来ぬ

源 実朝(みなもとのさねとも)

『金槐集』巻下雑。三句目を「おれおれに」とする本もある。将軍家として箱根と伊豆山のニ所権現に恒例の参詣をした次の日の朝、定刻になっても留守役の者たちが姿を現さないので、という意味の詞書がついている。歌の意味は、「旅のあいだの留守居番の近侍たちは、みな私用があってか、今朝はまだ出勤して来ない」と。ふと口をついたつぶやきの歌という感じが実朝の歌として珍しい。「私」をもちえぬ人の孤独がそこには感じられる。