恋は今は

あらじと(あれ)

思へるを

いづくの恋そ

つかみかかれる

広河 女王(ひろかわのおおきみ)

『万葉集』巻四相聞。もう恋など私にはありえないと思っていたのに、どこの恋めが私につかみかかってきたのか、またしてもというのである。作者の祖父穂積皇子(ほづみのみこ)は愉快な人で、酒宴で興が乗ると「家にある(ひつ)に鍵さしをさめてし恋の(やつこ)のつかみかかりて」という歌を唱っては踊ったと、『万葉集』でわざわざ注されているほどだった。孫娘の歌にその影響が見えるのが面白い。彼女は幼い時、艶福家のおじいちゃんに憧れ、仰ぎ見ていたのだろう。