沖の石の

ひそかに産みし

海鼠(なまこ)かな

野村 喜舟(のむら きしゅう)

『小石川』(昭二七)所収。明治十九年金沢生まれの現代俳人。幼時東京に移住、松根東洋城を生涯の師とし、「渋柿」主宰を継承。姿態の特異さからかナマコの句には古来面白いものが多い。これもその一つだが、ふと「小倉百人一首」の二条院讃岐の恋歌、「わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らね乾く間もなし」が連想される。辛い恋に沖の石さながら泣き濡れる女。その影像を背負った沖合の石が、ひそかにナマコを産んだのだと想像してみるのも一興。