富人の

家の()どもの

着る身無(みな)

(くた)し棄つらむ

絁綿(きぬわた)らはも

山上 憶良

『万葉集』巻五。憶良は万葉諸歌人中、きわだって率直に家族への愛や暮らしむきの貧しさを歌った人である。この歌も、老いて長らく病床にある身で、子らのことを思う苦しさを歌った連作の一首。富んだ家の子は着物がたくさんあり、それを着尽すには体が足りないので、むざむざ腐らして捨てているであろう、その絹よ、その綿よと、世の不公平を嘆く。「絁綿(きぬわた)」は太さや織り方の不ぞろいな絹をいう。