橋立(はしたて)倉椅川(くらはしがは)

石走(いはばしり)はも壮子時(をざかり)

わが渡りてし石走(いはばしり)はも

柿本人麻呂歌集

『万葉集』巻七。旋頭歌形式。言葉の繰り返しに歌謡調が残っている。「橋立の」は倉にかかる枕詞。「石走」は川瀬を渡るための踏み石。やや老いた男が、倉椅川の瀬の踏み石を踏んで対岸へ急いだ若いさかりの日を思いだし、胸いっぱいになっている。「はも」は強い感動を伝える助詞。歌意は単純なのに心にしみるのは、瀬を渡って急いだのが、たぶん恋ごころでいっぱいの青年だったからだ。