レポート

10月8日(日)「対談1 加納光於× 大岡玲 《アララットの船あるいは空の蜜》を中心に」開催しました。

 


大岡信が画家・加納光於と知り合ったのは、1960年、南画廊での加納氏の個展の折に大岡が作品を購入したことがきっかけです。以来、二人の親交は続きますが、その関係性を物語るものに、1971-72年制作の二人の共作オブジェ≪アララットの船あるいは空の蜜≫があります。加納氏が箱型のオブジェを制作し、そのオブジェの中に大岡信の詩集『砂の嘴 まわる液体』が密閉して収められました。(のちに詩集は2002年刊行の『大岡信全詩集』で公開。)

大岡信は、加納氏とのこの共作について以下のように記しています。

 この詩集は加納光於氏と私の共作(といっても九割は加納氏の一年余にわたる労作だが)の箱形オブジェ作品『アララットの船 あるいは 空の蜜』(三十五個限定)の内部に固定され、いわば最初から封印された詩集として刊行された。すでに五年近くを経過しており(注:一九七六年現在)、公表してはどうかと人から言われたこともたびたびある。私としても、格別公表をいとうわけではない。ただ、奇妙なことに、加納氏がこの詩集を密封した行為が私自身に及ぼした効果というものを、近年しだいに強く考えさせられることがあって、つまり私は『砂の嘴 まわる液体』という未公表の詩集を一冊持っていることによって、どこかでたえず何ものかに挑撥されているような気分を味わっているのである。この気分はまだしばらく保っていたい。加納氏が本来公表されることを前提とする活字の作品を、いわば有無をいわさずオブジェの中に閉じこめてしまったことの、ある必然的な結果が、私の中で今醗酵しているように感じられる。開けてみれば、なあに一向に大した詩があるわけではないことがわかるはずだが、その事と今いった事とは、どうも別の問題らしく思われる。
(「あとがき」『大岡信詩集(増補新版)』(一九七七))

展覧会のご案内

開催中の「大岡信 追悼特別展」では、共作≪アララットの船あるいは空の蜜≫と、同作の制作期間中に大岡信が加納氏に宛てて送り続けた、詩を書き付けた葉書を展示しています。この葉書に書き付けられた詩が、詩集『砂の嘴 まわる液体』となります。ぜひ展示室でご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

出演者プロフィール

■ 加納光於 かのう みつお

1933 年、東京に生まれる。19 歳の時に手にした版画の技法書により、銅板画を独学で始める。56 年、タケミヤ画廊で初個展。以降、版画、絵画、オブジェ、装幀や舞台芸術にいたるまで、あくなき探求心に従って精力的に作品を制作、独自の世界を切り開いてきた。大岡信とは60 年に南画廊での個展で出会って以来、大岡の詩集を収めたオブジェ《アララットの船あるいは空の蜜》を共作するなど、深い親交をもった。加納氏の仕事を初期から知る大岡の著作に『加納光於論』(書肆風の薔薇 1982)がある。本年、初期から現在までの版画作品を集約した「加納光於──揺らめく色の穂先に」展開催(CCGA 現代グラフィックアートセンター)。

■ 大岡玲 おおおか あきら

小説家、エッセイスト、東京経済大学教授。1958 年、大岡信の長男として東京に生まれる。専攻はイタリア文学。89 年に『黄昏のストーム・シーディング』(文芸春秋)で三島由紀夫賞、90 年に『表層生活』(文芸春秋)で芥川賞を受賞。美術への造詣も深く、95 ~ 97 年にNHK「日曜美術館」の司会もつとめた。2006 年より東京経済大学教授。小説、エッセイや新聞書評のほか、イタリア語をはじめとする翻訳など幅広い執筆活動を展開している。近著に『不屈に生きるための名作文学講義 本と深い仲になってみよう』(ベスト新書 2016 年)。